柔道誤審 審判の質低下



柔道誤審で主審を初の降格処分 寝技見逃す

12/5(水) 8:09配信 産経新聞

10月に行われた学生柔道の全国大会で重大な誤審があったとして、全日本柔道連盟が試合を裁いた主審を事実上の降格と2カ月の資格停止にしたことが4日、分かった。審判員には4つのランクがあり、処分を受けた主審は全日本選手権など主要大会を任される最上位の「Sライセンス」だが、来年度から1つ下の「A」で登録される。関係者によると、誤審による審判員の降格は初めて。

 誤審があったのは、10月に行われた全日本学生体重別団体優勝大会の男子準決勝(7人制)。日体大国士舘大の中堅戦で、国士舘大の選手が相手を寝技で抑え込んだのを主審は見逃し、技ありとなる10秒を過ぎた後に膠着(こうちゃく)状態と見て「待て」を宣告した。副審2人と試合を統括するジュリーも主審に訂正を促さなかった。

 大会の審判員を統括した全柔連大迫明伸審判委員長は「誤審」を指摘し寝技をやり直させたが、国士舘大の選手に技のポイントは入らず、中堅戦は引き分けた。試合は2-2で代表戦となり、日体大が勝利。決勝も制して初優勝した。

 全柔連の聴取に対し、主審らは「押さえ込みに見えなかった」と回答。全柔連は「技量不足による重大な誤審」とみなし、11月24日の専門委員長会議で処分を決めた。副審ら3人は2カ月の資格停止となった。

 全柔連の「公認審判員規程」が定める罰則は、触法行為などへの処分で、誤審を想定した罰則はない。今回は4人に弁明の機会を与え、処分案に同意を得た上での特別な措置という。

 全柔連は近く、誤審に関する審判への処分規定や再発防止策などの明文化に着手する。大迫審判委員長は「何の対応もしないとSライセンスが信頼を失う。規定がない中でぎりぎりの対応をした」と話している。


柔道審判失われる権威 時代が招いた「質」低下

2018.12.5 08:10 産経新聞



近年の柔道界で目を引く現象がある。立ち技で相手をしたたかに投げ付けた後、さらに寝技へと移り、相手を抑え込む手を緩めない。どう見ても「一本」としか判定しようのない技の後に。そんな選手を目にすることが増えた。
 「審判が信用されていないからだ」と、ある重鎮は危機感を募らせる。
 国際柔道連盟(IJF)は判定の拠り所を映像に求め、判定の最終権限を主審ではなく試合統括者のジュリーに与える。さらに複雑な判断は大会全体の判定に決定権を持つ「スーパーバイザー」に一任している。
 主審が宣告した「技あり」は鶴の一声で一本に昇格し、「一本」が技ありに格下げされる。それが日常になった。冒頭で挙げた光景は、「一本」の取り消しに備えた選手の自衛策だ。「この状況で、主審が100%の責任感を持って判定をすることは難しい」と先の重鎮は指摘する。
 時代が招いた審判の質の低下といえ、今回の誤審はその延長線上にある。審判の目を助けるために導入した機器が、逆に審判の権威をおとしめる。東京五輪は皮肉な流れの中で開かれようとしている。(森田景史)